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デライトブログ 第3回 「精神科特化の訪問看護ステーション その1」
ブログ第3回「精神科特化の訪問看護ステーション その1」
訪問看護ステーション デライト新宿
看護師 浅香茂樹
--浅香さんは看護師歴20年のベテランですが、以前は精神科病棟の看護師をしていました。そんな浅香さんがなぜ、デライト新宿で働くようになったのでしょうか?
デライトに移る直前は、精神科の救急病棟で、看護師として5年間勤めてきました。
この病棟は、入退院を頻繁に繰り返す患者さんが、非常に多いところでした。
退院される時は患者さんも笑顔で、私も本当に嬉しいんですが、早いと1ヶ月もしないうちに再入院してきてしまうんです。なんともやりきれない気持ちになります。
もちろん病院としても、退院支援プログラムというものを実施しており、私もその一員として関わってきました。
病院の中でチームを組みまして、主にドクターによる疾病教育とか、薬剤師さんによる薬の教育、看護師さんによるストレス対策、作業療法士さんや看護師さんによるソーシャルトレーニングなどを組み合わせた、全10回ほどの本格的なプログラムになっていました。
しかし残念ながらそういったプログラムに参加された患者さんも、結局は再入院してくるというケースが多かったんです。
なぜそうなってしまうんだろうと、私はずっと考えてきました。
そして気づいたのが、病院と、訪問看護などの病院外の支援とでは、支援の仕方が違うということでした。
病院での支援プログラムは、患者さんも10人位の集団で、同じ内容で行っています。みなさん退院したあとは、それぞれ日常のあり方も、私生活のスタイルも違うとわかってはいるんですけれど、そういった個別の事例に対応できているわけではありません。
だから、せっかくの退院支援プログラムが生かされてないと思ったんです。
その頃から、退院してからの日常を見ることができるのは、地域の中の「訪問看護ステーション」という形なのではないだろうかという考えが、自分の中で大きくなってきました。
--病院在籍時代から、訪問看護の仕事のことは意識されていたんですか?
もちろん強く意識していました。なにしろ、病院の業務としても訪問看護がありましたからね。
でも病院の訪問看護というものは、訪問できる場所に何キロ以内という決まりもありますし、それに言い方は悪いですけど「具合が悪けりゃまたうちの病院に入院させる」という形になってしまいます。それは本来の訪問看護のあり方とは違うと思っていました。
そんな思いを抱えていたある日、地域で活躍している訪問看護師さんをはじめ、いろんな機関と交流できる研修会に参加しました。
そこで訪問看護師さんの色々なお話を聞いているうちに、「ああ、やはり自分が本当にやりたいのはこっちのほうなんだ」と確信するに至ったんです。
病院の中からではなく、地域の訪問看護ステーションでいろんな機関と連携しながら、患者さんの生活にあったケアをしていくこと。それが私のやりたい仕事だったんです。
「再入院防止」という観点からも、それがいちばん大切なことだと思ったんです。
--病棟看護師として働いていた頃と、デライトで働いている現在とで、一番大きな違いは何でしょうか?
病院では患者さんの日常までも見ることができませんので、退院指導をする際も、どうしても一般的で基礎的な指導になります。患者さんに合わせた個別の支援はできません。
でも訪問看護を始めてからは、患者さんの日常を知った上でそれにあわせた関わりができるようになりました。それが大きいですね。
--患者さんの日常というと、たとえば家族構成などですか?
それもありますし、働いている人と働いていない人の違いとか、デイケアなどの施設を利用しているのか、あるいは自宅にだけいる人なのか。
その人なりのさまざまなスタイルがあるので、できれば利用者さんの思いは理解をして肯定して、その中で不足している部分をサポートしていきます。
例えば薬の管理ひとつにしても、入院中は看護師が付きっきりで見てくれますので、落ち着いた症状で過ごすことができるんです。
ところが、在宅だと本人の管理が全てになってしまいますので、勝手に飲むのをやめてしまう人や、薬を飲むこと自体忘れてしまう人が多いんですよ。
実際、再入院のほとんどが、「怠薬」と書きますが、薬を飲むことを勝手に怠ってしまうのが原因です。まずはそれを防ぐことが、訪問看護師の大事な仕事ですね
家族がいれば家族に協力してもらうことも可能ですが、独居生活の方もいらっしゃいますので、どうやったら規則的に飲んでもらえるかが課題になります。
薬を飲ませるだけなんて簡単じゃないか、と思われるかも知れませんが、そこには精神科特有の事情があります。
精神科の患者さんに共通して言えるのは、病識が乏しいということです。自分はこういう病気で、こういった特徴があるということが、なかなかわからない方が多いのです。
あと、精神疾患というのはすぐに治る病気ではなく、多くが慢性化していくものなので、ずっと服薬は継続していかなきゃいけないんです。
ところが、まるで風邪薬のような感覚で、「もう治ったんだから飲まなくていいだろう」と思ってしまう方が多いんです。退院された時点は調子が良くて気分もいいですから、「自分は治った、もう薬は飲まなくていい」と思ってしまうんですよ。
それから、精神科への入院の際は非自発的な、言ってみれば強制的な入院になるケースが少なくないので、自分から積極的に医療に協力する気持ちを持つことができずに、退院したら医者からも薬からも解放されたような、間違った気分に陥ってしまう人もいます。
--大変ですね。それらを防ぐために、浅香さんはどんなことをやっているのでしょうか?
本来なら病院と訪問看護で完全に連携して、入院中に病院内で基本的な薬の必要性を説明して訪問看護に繋いでいくというのが理想なんですが、現状そこまでの連携は取れていないです。
なので、まずは少しずつ時間をかけて、薬はずっと飲まなくてはいけないものだということを説明していきます。
すぐには理解してもらえないこともありますけど、辛抱強くそういうやりとりを続けていくと患者さんも気になって「なんで継続して飲むことが必要なんですか」とか「どうすればいいんですか」とか、薬に対して向こうから関心を持つようになるケースも多いです。
あとは、どうしても自分で管理できない場合は、訪問するたびに数を確認させてもらうとか、場合によってはこちらで薬をお預かりして管理をする場合もあります。
--預かるというのは、訪問するたびに適量の薬を渡して飲みなさいという形ですか?
そうです。あとは施設に入っている方ですと、施設のスタッフが預かってくれて手伝いをしてくれる場合もあります。
一番心配なケースは、先程いったように風邪薬みたいな感覚で飲まれる方です。
退院してきたときは調子が良いですから、もう必要がないと思って飲まなくなり、少し体調が悪いなと思って急に飲みだしたりします。
でも、薬というものは継続的に飲まないと、逆に薬が効きすぎてしまったり、副作用を起こしやすかったり、症状をむしろ悪化させたり。不規則な薬の飲み方をすると、そういった危険な事が起きますので、まずそれを阻止しなくてはいけません。
不規則な飲み方をしていると、今までになかった症状が起こることもあります。例えばてんかん発作を起こしたりとか。そうなると命にも関わることになります。
ですから、どうしても自己管理で正しい服薬ができない人には、薬の管理をこちらでします。
--言葉は悪いですけど「強制」するような形ですか?
あくまで一時的な措置として、場合によってはあり得ます。
でもほとんどの方は、訪問看護の関わりを通して信頼関係ができてくると、薬の必要性を感じていただいて、きちんと飲めるようになっていきます。
ともあれ何にせよ、精神科では薬物治療がまず一番の治療ですので、そこをしっかりやることが、常に最優先です。
--利用者さんと信頼を築くのも大変だと思いますが、何か心が通じた瞬間みたいなものはありますか?
利用者さんの中で、まさに怠薬のせいで入退院を繰り返していた方がいまして、私もその人を見るようになりました。
実際、入って最初の一ヶ月くらいは、まったく飲んでいなかったんです。そのせいで同じような症状の繰り返しが置きてしまって、私としても薬の重要性を言葉で伝えていたんですが、まるで効果がない。
そこで、私がどうしても心配だと伝えた上で、その方の同意をもらって、病院に受診に行く時に私が付き添いという形で一緒に病院に行って、薬のことについて先生と3人で話す機会を設けていただいたんです。
そしたら、その利用者様から「そこまで熱心にやってくれるんですね」という言葉をいただきました。それ以降はずっと、薬を飲んで頂けるようになりました。
言葉で言うのは簡単ですが、言葉以外の行動が大事なのかなと思います。この例だと、心配して病院までついてきてくれたということが、信頼関係が繋がる契機になったのだと思います。
真剣に利用者さんと向き合いたいという、言葉よりも態度というか非言語的な部分で、信頼の気持ちを伝えることができればと思っています。
【デライト新宿 浅香看護師】
【編集後記】
ブログ第3回はデライト新宿の浅香看護師へのインタビュー形式にて行いました。浅香看護師のご利用者様への思いがとても伝わってきました。次回は浅香看護師へのインタビューの続きです。